ながれたり

 手術日の記録

手術は14時からだったので、直前まで一人で病室に待機していた。何も手につかないので、Yさんの誘導瞑想音声をスマホで流しながら、部屋中をグルグル歩いた。

手術日、東京では珍しく、雪が降っていた。宮沢賢治『永訣の朝』では、雪を「天上のアイスクリーム」と表現している。きっと大切な日だから、私に差し入れしてくれたんだなあと思う。また、妹トシ「あめゆじゅ」から、きっと目に見える世界を雪で覆い、聖なる空間にしてくれたのかもしれないなあとも思う。手術に立ち会う夫には足元が気の毒だったが。私は、トシさんと二人清らかな「あめゆじゅ」を眺めているようで、嬉しかった。

ずっと落ち着いて過ごせていたのは、誘導瞑想の暗示がしっかり入っていたおかげもあると思う。

Kさんの「アヴェマリア」を繰り返し聴く。聴きながら、イメージをする。この歌に乗せて、胸腺のエネルギーを光に変え、天界のマリア様まで導かれるよう、付添を天使たちにお願いする。マリア様に「どうか、マリア様の元で、胸腺さんが美しい光となり、抱かれますように。」と手を合わせ祈る。

胸腺さんから、メッセージを受けとる。「この歌声、とても綺麗だね。とても気に入ったよ。ぼく、この歌に乗ってマリア様の所へ行くね。心配ないからね。また、会おうね。」

涙を流しながら、胸腺さんに感謝とお別れを伝える。このKさんの美しい歌声を、胸腺さんの乗る銀河鉄道にできて、本当に良かった。Kさん、愛ある歌声、本当にありがとうございます。

手術は三回目なので、慣れているはずだが、やはり緊張する。シャンティマントラを唱え、Yさんが直前に送ってくれた後催眠暗示を繰り返す。

Yさんが作ってくれた

【後催眠暗示】

「あなたは、

次に目が覚めると

黄色

オレンジ

金色の『魂』そのものとなって、

「新たな人生」を生き始めます。

全てに『愛』を感じ、

『感謝』と共に、

生き始めます。

そして、

「喜び」に溢れ、

多くの人々に、

その『愛』を広めて行き(生き)ます。」


手術室へ。毎度のことながら、全身麻酔で、意識がバサッと切断。私が居なくなる。

「○○さ~ん。終わりましたよ!」医師の声で意識が少し戻るが、呼吸が出来ないのでびっくりする。吸ったり吐いたりが出来ない。どうやるんだっけ?パニックになる。

まだ、喉に挿管されていたからのようで、管を抜かれたが、パニック中の私は、かすれ声で「呼吸のやり方、忘れてしまいました!」と半泣きになる。医師も麻酔技師も、笑いながら「ちゃんと呼吸できてますよ。大丈夫ですよ。」と教えてくれる。自力で深呼吸をしてみる。「そうそう、いいですよ。上手、上手。」看護師さんが褒めてくれる。こんなことあるんだなあ。呼吸出来ていないと思い込んでいたら、窒息しちゃうんだろうか。呼吸って、意識すると難しい行為だ。無意識に呼吸している私たちは、すごいんだなあと思った。呼吸は、大いなる流れだ。私たちは、誰もがこの目に見えない偉大な力に生かされている。

術後、ベッドに乗せられ病室に移動。4時間待機してくれていた夫に、心から「ありがとう」を伝える。数分でお別れ。コロナ時代だから仕方ない。

1ヶ月前の術後との違いは、指一本自由にならないこと。点滴、血栓防止足のマッサージャー、心電図、尿道の管、胸のドレーン、酸素マスク。あらゆる管にがんじからめになっている。そのため、スマホを触ることも出来ない。ただ、仰向けになっていることしか出来ない。

痛みが出てきたら、Yさんの誘導音声を流し続ける予定だったが、スマホに触れないので、催眠疼痛コントロールを自分でやるしかない。できるかな?

今回は、肋骨の間から器具を入れて腫瘍切除した。出血を体外に出すために、肋骨間から、管が出ている。肋間神経が通っているので、ちょびっと動かすだけでも、メチャクチャ痛い。「前の手術より痛いよ。」と医師が言っていて、怯えていたのだが、この痛みかぁ~!と合点が行く。まことに痛い。

痛み止めも使っていたのだが、夜中が一番辛かった。

痛い!痛い!痛い!痛い ~!×200回は繰り返しただろうか。

痛い真っ最中に、自己催眠の余裕は無い。「白い癒しの光が頭頂から入り····うぅ、痛い!痛い!痛い!」になってしまう。否応なしに現実の体感に引き戻される。

痛がりながら、眠剤が半分効いてきていたのだろうか。色んなビジョンが浮かんでは消えていく。地平線にグルッと山が連なっている景色とか。誰かの声も聴こえてきたが、内容は忘れてしまった。そして、なぜか、宮沢賢治の詩「ながれたり」が、頭の中でリフレインしている。

げに ながれたり みずのいろ

もう、どうにもならん。自我は降参だ。宇宙に委ねるしかない。なるようになれ。痛いとはいえ、死ぬほどではない。私は無事生きている。

魂の望みは「痛みを体験したい。」だった。痛みが分かれば、今後その経験が活かせるから。だから、この痛みか。く~っ。(泣)

分かったよ。分かった。思う存分、痛みを味わってちょうだい。これがやりたかったんでしょ。魂さん。

Mさんが私の魂の色を絵にして、メッセージをくれたことを思い出す。「喜びだけ!これからは喜びだけになるからね。」電話口で、こう励ましてくれていた。「痛い!」の合間に「喜びだけ!」も繰り返す。

しかし、さすがに疲れてきたので、もう体験はこのあたりで勘弁してもらい、ナースコールを押して、新たに痛み止めの点滴を入れてもらった。やがて、気絶するように眠った。

よく、今晩が山だとか、病気にそんな表現がある。朝、目覚めたら、少し楽になっていた。山は越えたようだ。動かさないと大丈夫だが、数ミリ動かすと激痛。

なのに、なのに、色んな管がついたまま、車椅子に乗せられ、レントゲンを撮影しに行くという。なんですと?

痛くてひ~ひ~声を上げながら、数センチ単位でゆっくり身体を動かして、起き上がり、車椅子に移動。

そして、その時に介助してくれた男性看護士が、メチャクチャ美形だった。ドラマに出てくる若手俳優を5倍かっこよくした感じ。彼は見事に私をサポートし、丁寧に送り迎えしてくれた。(もしかして、この病院にはイケメンしかいないのか?)

痛かったし、ひ~ひ~言ってしまったけど、この点なんだか私、美味しい体験させてもらえているなあと、密かに思った。

昨日の美形医師といい、管制室の私の遠隔操作担当は、「美形を出しておけば、確実にタスクをクリアできる。」とでも考えているのだろうか。ありがたいけど。

*補足

数日後気づいたので書いておく。この時に私は眼鏡をしていなかった。私は超ド近眼なので、裸眼では人の顔が見えない。それなのに、この時、看護士の表情までクリアに見えていたし、レントゲン室の様子もバッチリ記憶している。肉体の眼で見ていなかったのか?やはり、宇宙から視覚を遠隔操作されていたのか?謎。


午前中のうちに、すべての管がはずされ、肋間神経に触っていた異物も無くなり、普通にしていれば痛みを感じなくなった。

痛み、ながれたり。

午後は、Zoomで、がん患者のための催眠療法セミナーに参加。私は病室だったので、画面オフでの参加であり、ワークは出来なかったが、理論を学べるだけでもありがたかった。

萩原医師は、セラピストは潜在意識優位になりセッションを行うとよいとblogに書いている。セラピストが潜在意識に入ると、クライアントも潜在意識に入りやすくなり、自身の力で、必要なメッセージを本質から受け取っていく。

ミルトン·エリクソンは、現代催眠の父であり、クライアントに応じて素晴らしいスクリプトをオリジナルで作り上げている。後生の私たちが読んでも、うっとりするものが多い。

エリクソンは、常時体に痛みを感じていたそうだ。そのため潜在意識優位になりやすかった。

痛みは、脳波7.8Hzにする。神様の周波数と言われ、免疫や体の修復力が最大限発揮される。だから、痛みは痛み止めを多用すると、治りが遅い。外科手術後は安静にするより、どんどん動けと言われるのも、体の自己治癒力を発揮させるためだ。

この7.8Hzがスローα波。潜在意識優位な脳波。催眠に入りやすい脳波だ。

セラピストが神様の周波数を発することが出来れば、同席しているクライアントに影響し、7.8Hzに同調してくる。

よいセラピストとは、潜在意識でセッションを行える人であると、萩原医師は言っている。

関係あったのか、分からないが、今回私がなかなかハードな痛みを体験させられたのも、セラピストとしては必要な学びだったのかもしれない。7.8Hzをしっかり体にアンカリングするためだったのかもしれない。

人の痛みを共感できるようになるためかな?と思っていたが、それだけではなさそう。痛みの効用は、人の本質への目覚めにも通じるような気がする。

痛みは、誤魔化しようがないし、あるがままに留まる貴重な機会になる。エゴは静かにさせられる。なんとなく、老子のタオ(道)を連想した。

「偉大にして、それは流れる

遥か遠くまで流れる

遥か遠くに流れ、また、返ってくる

だからこそ、道は偉大である

天は偉大であり

地は偉大であり

人もまた偉大である」(二十五)


痛みから学ぶ。確かにそういうことも、人生にはあるのだと思った。顕在意識では絶対に理解できないことだが、潜在意識は、その効用を知っている。私たちの中には、深い叡智の流れがある。その流れは清濁あわせ持つ。どちらか一方のみでは成り立たない。

宮沢賢治は、老子のタオにも通じる詩を創ったのだ。何度も味わいたい詩のひとつだ。

☆『ながれたり』

宮沢賢治


ながれたり 

夜はあやしく陥りて

 ゆらぎ出でしは一むらの 

陰極線の盲しひあかり 

また螢光の青らむと 

かなしく白き偏光の類 

ましろに寒き川のさま 

地平わづかに赤らむは 

あかつきとこそ覚ゆなれ 

(そもこれはいづちの川のけしきぞも) 

げにながれたり水のいろ 

ながれたりげに水のいろ 

このあかつきの水のさま 

はてさへしらにながれたり 

(そもこれはいづちの川のけしきぞも)

 明るくかろき水のさま 

寒くあかるき水のさま 

(水いろなせる川の水 

水いろ川の川水を

 何かはしらねみづいろの 

かたちあるものながれ行く)

 青ざめし人と屍 

数もしら 水にもまれてくだり行く

 水いろの水と屍 数もしら 

(流れたりげに流れたり) 

また下りくる大筏 

まなじり深く鼻高く

 腕うちくみてみめぐらし 

一人の男うち座する 

見ずや筏は水いろの 

屍よりぞ組み成さる 

髪みだれたるわかものの 

筏のはじにとりつけば 

筏のあるじ瞳まみ赤く

 頬にひらめくいかりして 

わかものの手を解き去りぬ 

げにながれたり水のいろ 

ながれたりげに水のいろ 

このあかつきの水のさま 

はてさへしらにながれたり

 共にあをざめ救はんと

 流れの中に相寄れる 

今は却りて争へば 

その髪みだれ行けるあり 

(対岸の空うち爛れ

 赤きは何のけしきぞも)

 流れたりげに流れたり 

はてさへしらにながるれば 

わが眼はつかれいまはさて 

ものおしなべてうちかすみ 

たゞほのじろの川水と 

うすらあかるきそらのさま 

おゝ頭ばかり頭ばかり 

きりきりきりとはぎしりし 

流れを切りてくるもあり

 死人の肩を噛めるもの 

さらに死人のせを噛めば 

さめて怒れるものもあり 

ながれたりげにながれたり 

川水軽くかゞやきて 

たゞ速かにながれたり 

(そもこれはいづちの川のけしきぞも 

人と屍と群れながれたり) 

あゝ流れたり流れたり 

水いろなせる屍と 

人とをのせて水いろの 

水ははてなく流れたり

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