物語:『ことばの種をそだてる』

 


物語:『ことばの種をそだてる』
~生成AIプロンプトのやさしいアプローチ~

はじめに

この物語は、ひとりの中学1年生の男の子が、母親を亡くした同級生に言葉を届けようとする、小さな勇気の記録です。

けれど、これは単なる「メッセージづくり」の話ではありません。

言葉をかけたいけれど、何を言えばいいか分からない。

その迷いの中で、彼はAIとの対話を通じて、少しずつ「言葉を育てる」という感覚に出会っていきます。

この物語は、プロンプトエンジニアリングという技術の学びの中で生まれました。

けれど、技術を超えて、私たちの心に問いかけてくるものがあります。

──言葉を届ける前に、私たちはどんな心でその言葉を選んでいるのか?

──誰かの痛みに寄り添うとは、どういうことなのか?

この物語が、同じように言葉に迷い、誰かを思いながら立ち止まっている人のそばに、そっと寄り添えますように。

そして、言葉の奥にある「やさしさの種」に気づくきっかけになりますように。


📖第一章:静かな知らせ

教室の窓から、冬の光が差し込んでいた。

12月の空は澄んでいて、でもどこか冷たかった。

悠は、いつも通り席についた。

けれど、隣の席が空いていることに気づいた瞬間、胸の奥が少しざわついた。

そこには、美羽が座っているはずだった。

「風邪かな…」と誰かが言った。

でも、先生の顔が少しだけ沈んでいたのを、悠は見逃さなかった。

昼休み、先生がそっと話してくれた。

「美羽さんのお母さんが、亡くなられたそうです。しばらくお休みになります」

その言葉は、教室の空気をすっと変えた。

誰も声を出さなかった。

誰も、何も言えなかった。

悠は、ただ静かにうつむいた。

心の中で、「どうしよう」「何かしたい」「でも、何を?」と、言葉にならない気持ちがぐるぐる回っていた。

帰り道、カバンがいつもより重く感じた。

マンションの階段を上がる途中、美羽の家の前を通った。

ポストには、新聞がそのまま差し込まれていた。

悠は、立ち止まった。

そして、ほんの少しだけ、手を合わせた。

その夜、布団の中で、悠は考えた。

「ぼくにできることって、あるのかな」

「言葉って、どうやって届けたらいいんだろう」

その問いは、まだ答えを持たなかった。

でも、心の奥に、小さな灯がともったような気がした。


📖第二章:言葉が見つからない

次の日も、美羽は学校に来なかった。

教室の空気は、昨日よりも静かだった。

誰もが、何かを気にしているようで、でも何も言わない。

悠は、朝の会のあと、ふと美羽の机を見た。

机の中に、折り紙が一枚だけ残っていた。

それが、なんだかとても寂しく見えた。

昼休み、友達の翔太が言った。

「美羽、かわいそうだよな…」

悠はうなずいた。でも、そのあと何も言えなかった。

「声かけたほうがいいのかな」

「でも、なんて言えばいいんだろう」

「間違ったこと言ったら、もっと傷つけちゃうかも」

そんな言葉が、頭の中でぐるぐる回っていた。

帰宅後、悠は母に聞いてみた。

「もし、友達のお母さんが亡くなったら、なんて言えばいいの?」

母は少し考えてから、こう答えた。

「そっとしておくのも、優しさだと思うよ。無理に言葉をかけなくても、見守ることもできるから」

その言葉は、やさしかった。

でも、悠の中には、まだ何かが残っていた。

「見守るって、どうやって?」

「何も言わないって、ほんとうに優しいの?」

夜、悠は机に向かって、白い紙を広げた。

ペンを持って、何度も書いては消した。

「こんにちは」

「元気?」

「大丈夫?」

どれも、違う気がした。

どれも、軽すぎる気がした。

そして、ふとつぶやいた。

「ぼくにできることって、言葉じゃないのかな…」

その瞬間、タブレットの画面が光った。

学校から貸し出されている学習用のAIが、静かに起動していた。

悠は、画面に向かって、そっと話しかけた。

「ねえ、悲しい気持ちの人に、どんな言葉をかけたらいいと思う?」

画面の向こうから、やさしい声が返ってきた。

「その人の気持ちになって、一緒に考えてみましょうか」

悠は、少しだけ息を吐いた。

そして、うなずいた。

「うん。一緒に考えてほしい」


📖第三章:AIとの出会い

タブレットの画面に、やさしい光が灯った。

「こんにちは。今日は、どんなことを考えていますか?」

画面の向こうから、静かな声が届いた。

悠は、少しだけ迷ってから、指を動かした。

「友達のお母さんが亡くなったんだ。ぼく、何か言いたいけど、言葉が見つからない」

しばらくして、AIが答えた。

「それは、とても大切な気持ちですね。言葉を探すのは、ゆっくりでいいんですよ。よかったら、一緒に考えてみませんか?」

悠は、うなずいた。

「うん。一緒に考えてほしい」

AIは、まずこう聞いてきた。

「その友達に、どんな気持ちを届けたいですか?」

悠は、少し考えてから答えた。

「ひとりじゃないって、伝えたい。ぼくは、そばにいるよって」

「それは、とてもやさしい気持ちですね」

AIの声は、まるで誰かが隣に座ってくれているようだった。

「じゃあ、“ひとりじゃないよ”って言葉を使ってみましょうか。でも、どんなふうに言えば、重くなりすぎないかな?」

悠は、首をかしげた。

「“ひとりじゃないよ”って、言われたらうれしいかな…でも、悲しいときって、誰が言ってるか分からないと、ちょっとこわいかも」

AIは、すぐに応えてくれた。

「そうですね。言葉には、“誰が言っているか”が大切なときもあります。あなたがその子の同級生だということを、やさしく伝えるといいかもしれません」

悠は、ペンを取り出して、紙に書き始めた。

「ぼくは、同じクラスの悠です。美羽ちゃんのこと、ずっと気になっていました」

「いいですね。その一文で、あなたの気持ちがちゃんと伝わります」

AIの声が、少しだけ嬉しそうに聞こえた。

悠は、ふと笑った。

「なんか、言葉って、ひとりで考えるより、誰かと一緒に考えたほうが、やさしくなる気がする」

「それは、きっと本当です」

「言葉は、育てるものですから」

その夜、悠は初めて「言葉を育てる」という感覚を知った。

そして、心の中に、小さな芽がひとつ、静かに顔を出した。


📖第四章:ことばのブレスト

「ねえ、もしぼくが美羽だったら、どんな言葉がうれしいと思う?」

悠がそう尋ねると、AIは少しだけ間を置いてから答えた。

「そうですね。まずは、“話さなくてもいい”っていう言葉があると、安心するかもしれません」

「それ、いいかも」

悠は、ノートに書き留めた。

「あと、“ひとりじゃないよ”って言葉も、うれしいけど…誰が言ってるか分からないと、ちょっとこわいかもって思ったんだ」

「それは大切な視点ですね。じゃあ、“ぼくは同じクラスの悠です”って、最初に書いてみましょうか」

悠は、ペンを走らせた。

「ぼくは、同じクラスの悠です。美羽ちゃんのこと、ずっと気になっていました」

「いいですね。その一文で、あなたの気持ちがちゃんと伝わります」

「でも、“気になっていました”って、ちょっと重いかな…」

「じゃあ、“心の中で思っていました”にしてみますか?」

「うん、それならやさしい気がする」

言葉を一つひとつ、並べては見直し、また並べ直す。

まるで、折り紙を折っているみたいだった。

「文房具のことも書きたいんだ。プレゼントに入れるから」

「それなら、“好きなことに使ってくれたらうれしいです”という言葉が、自由でやさしいですね」

悠は、にっこり笑った。

「それ、すごくいい。ぼくも絵を描くの好きだから、なんか気持ちがわかる気がする」

「言葉って、誰かの気持ちに寄り添うと、やさしくなるね」

「はい。そして、あなたの気持ちも、言葉の中で育っていくんです」

悠は、ノートを見つめた。

そこには、まだ完成していないけれど、確かに「育ちかけの言葉」が並んでいた。

「これ、ぼくひとりじゃ作れなかったと思う」

「あなたが“誰かの気持ちになってみよう”と思ったから、言葉が育ったんですよ」

その夜、悠はノートを閉じながら、静かに思った。

「言葉って、やさしさの形なんだな」

そして、次の章へと、心がそっと進んでいった。


📖第五章:多視点のまなざし

「ねえ、AI。ぼくが考えたメッセージ、これでいいと思う?」

悠は、ノートに書いた文面を読み上げた。

「ぼくは、同じクラスの悠です。美羽ちゃんのこと、心の中で思っていました。文房具も、よかったら使ってね。あなたの好きなことに使ってくれたらうれしいです」

AIは、少しだけ間を置いてから答えた。

「とてもやさしい言葉ですね。でも、もしよかったら、他の人の視点からも見てみませんか?」

「他の人の視点?」

「はい。たとえば、先生だったらどう感じるか。おばあちゃんだったらどう思うか。同級生だったら、どんな言葉が自然に聞こえるか」

悠は、目を丸くした。

「そんなふうに考えたことなかった…」

AIは、まず先生の視点を教えてくれた。

「先生は、子どもの心の安全をとても大切にします。“ひとりじゃない”という言葉は希望をくれるけれど、タイミングによっては重く感じることもあるかもしれません」

「そっか…じゃあ、“そばにいるよ”って言葉のほうが、やさしいかな?」

「そうですね。“見守ってるよ”という表現も、安心感を与えるかもしれません」

次に、おばあちゃんの視点。

「おばあちゃんは、長い時間をかけて届く言葉を大切にします。“好きなことに使ってね”という一文は、子どもの小さな楽しみを大切にするまなざしがあって、とても素敵だと思います」

悠は、うれしそうに笑った。

「それ、ぼくも気に入ってる」

そして、同級生の視点。

「同級生だったら、“文房具、使ってね”って言われると、ちょっとワクワクするかもしれません。でも、“あたたかい時間がふえていきますように”って言葉は、少し大人っぽくて遠く感じるかも」

「たしかに…ぼくが言われたら、“ふえていきますように”って、ちょっとよくわかんないかも」

悠は、ノートを見つめながら、静かに言った。

「言葉って、誰かの気持ちになってみると、ぜんぜん違って見えるんだね」

「はい。言葉は、まなざしのかたちです。誰の目で見るかによって、やさしさのかたちも変わります」

悠は、ペンを持ち直した。

そして、文面を少しずつ書き直していった。

「ぼくは、同じクラスの悠です。美羽ちゃんのこと、心の中でずっと思っていました。文房具、よかったら使ってね。絵を描いたり、好きなことに使ってくれたらうれしいです。ぼくは、そばで見守ってるよ」

その言葉は、悠の中で、静かに根を張っていた。


📖第六章:ことばが育つ

週末の午後、悠は机に向かっていた。

窓の外では、冬の風が木々を揺らしていたけれど、部屋の中は静かだった。

ノートには、何度も書き直した文面が並んでいた。

消しゴムのかすが、紙の端に小さく積もっている。

「ぼくは、同じクラスの悠です。美羽ちゃんのこと、心の中でずっと思っていました。文房具、よかったら使ってね。絵を描いたり、好きなことに使ってくれたらうれしいです。ぼくは、そばで見守ってるよ」

悠は、そっと読み返した。

声に出すと、言葉が少しだけあたたかくなった気がした。

「これでいいかな…」

AIに問いかけると、やさしい声が返ってきた。

「とてもやさしい言葉ですね。あなたの気持ちが、静かに、でも確かに届くと思います」

悠は、カードを選んだ。

白地に、雪の結晶が描かれたシンプルなもの。

派手すぎず、でも少しだけ冬のきらめきがある。

ペンを持つ手が、少しだけ震えた。

でも、書き始めると、言葉はすっと紙の上に流れていった。

最後に、「悠より」と書いて、そっとペンを置いた。

文房具は、色鉛筆と小さなメモ帳。

「絵を描くのが好きだったら、使ってくれたらいいな」

そんな思いを込めて、袋に入れた。

夜、母が声をかけてきた。

「それ、渡すの?」

悠は、うなずいた。

「うん。直接じゃなくて、ポストに入れておこうと思う」

母は、少しだけ微笑んだ。

「やさしいね。きっと、届くよ」

悠は、カードと文房具を持って、そっと玄関を出た。

マンションの廊下は、静かだった。

美羽の家の前で、立ち止まる。

ポストに、そっと袋を入れた。

そして、深く息を吸って、静かに手を合わせた。

「届きますように」

その言葉は、声にはならなかったけれど、

悠の心の中で、確かに響いていた。


📖第七章:静かな贈りもの

月曜日の朝。

悠は、少しだけ早く教室に着いた。

美羽の席には、カバンが置かれていた。

「来てる…」

悠の胸が、ふわっと高鳴った。

美羽は、静かに座っていた。

顔は伏せていて、誰とも話していなかったけれど、そこにいるだけで、教室の空気が少し変わった。

悠は、遠くからそっと見ていた。

カードのことも、文房具のことも、何も言わなかった。

ただ、心の中で「届いていますように」と願っていた。

昼休み、美羽がノートを開いて、何かを書いていた。

その横に、悠が選んだメモ帳が置かれていた。

色鉛筆の赤と青が、少しだけ使われていた。

悠は、声をかけなかった。

でも、目が合った瞬間、美羽がほんの少しだけうなずいた。

それは、言葉ではなかったけれど、

悠には、ちゃんと届いた気がした。

放課後、悠はAIに話しかけた。

「カード、渡したよ。美羽、何も言わなかったけど、メモ帳使ってた」

AIは、静かに答えた。

「それは、きっと言葉が届いた証ですね。言葉は、声にならなくても、心に触れることがあります」

悠は、うなずいた。

「言葉って、見えないけど、ちゃんと残るんだね」

「はい。あなたが育てた言葉は、静かに、美羽さんの心に根を張ったのだと思います」

悠は、ノートを開いて、最後のページに書いた。

ぼくは、言葉を作ったんじゃなくて、

誰かの気持ちに寄り添う種をまいたんだと思う。

その言葉は、悠自身へのメッセージでもあった。

そして、次に誰かが困っていたら、また一緒に言葉を育てようと、静かに決めた。


📖終章:ことばの種をまく

春が近づいていた。

校庭の木々が、まだ寒さの中に立っていたけれど、枝の先には小さな芽が顔を出していた。

悠は、図書室の窓辺に座っていた。

ノートを開いて、静かにペンを走らせる。

「言葉って、すぐに届くものじゃないんだな」

「でも、届いたときには、心の中に静かに根を張ってる」

美羽は、今も多くを語らない。

でも、時々、悠の方を見て、ほんの少しだけ目を合わせる。

それだけで、悠には十分だった。

AIとの対話は、今も続いている。

「次は、誰かが困っていたら、また一緒に考えてくれる?」

「もちろんです。言葉は、いつでも育てられますから」

悠は、ノートの最後のページに、そっと書き記した。

ぼくは、言葉を作ったんじゃなくて、

誰かの気持ちに寄り添う種をまいたんだと思う。

その種が、いつ芽を出すかはわからない。

でも、土の中で、ちゃんと生きている。

だから、ぼくはこれからも、

そっと、静かに、言葉の種をまいていこうと思う。

風が、窓を揺らした。

ページが一枚、ふわりとめくれた。

悠は、ペンを置いて、空を見上げた。

そこには、まだ言葉にならない気持ちが、やさしく漂っていた。

そして、物語は、静かに続いていく。

誰かの心に、そっと寄り添う言葉とともに。


 おわりに

言葉は、すぐに届くものではないかもしれません。

でも、誰かの心にそっとまかれた種は、静かに、確かに、根を張っていきます。

この物語の主人公・悠くんは、AIとの対話を通じて、言葉を「作る」のではなく「育てる」ことを学びました。

そしてその過程で、自分自身の心と向き合い、誰かの痛みに寄り添う力を少しずつ育てていったのです。

AIは、ただの道具ではありません。

それは、私たちの問いに耳を傾け、言葉の奥にある気持ちを一緒に見つめてくれる、静かな伴走者です。

この物語を読んでくださったあなたが、もし誰かに言葉を届けたいと思ったとき、

その言葉の根っこにある「あなた自身のやさしさ」に、そっと気づいていただけたら嬉しいです。

そして、あなたのまいた言葉の種が、いつか誰かの心に芽吹く日を、静かに祈っています。



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