螺旋語り:『記憶の中心点──語りの円環をめぐる旅』
螺旋語り:『記憶の中心点──語りの円環をめぐる旅』
はじめに
「記憶の中心点」~ひとつめの円環
1.
わたしは、中心点に立っていた。
さっきまで、わたしは急峻な山脈の岩肌で、命を削るように登っていたのに。雪と氷はどこへ消えたのだろう?
2.
そこには、始まりも終わりもなかった。
そうだ。手がすべった瞬間、わたしは「終わった・・」と思った。けれども、わたしは終わりの向こう側にいた。
3.
ただ、ひとつの震えが、わたしの内側から広がっていた。
この震えはわたしの命の余韻か、それとも始まりの鼓動か。
4.
その震えは、誰かの名前を呼んでいた。
わたしは、わたしの内側へ降りていった。その震えが名を告げる瞬間を、わたしは待っていた。
5.
名前は、まだ言葉になっていなかった。
意味をなす前の振動は、腹の底からマグマが噴き上がるような、熱い躍動だった。──それは、原初の熱だった。
6.
でも、わたしはその響きを知っていた。
繰り返し繰り返し、わたしはその導きの響きと共にいた。
7.
響きは、光のように、わたしの記憶を照らした。
やわらかな、まるい光のゆりかごへ、わたしは飛び込んだ。
8.
記憶は、わたしがまだ“わたし”になる前の、やわらかなかたちだった。
ひとつが、ふたつになり。ふたつが、よっつになり。よっつが、やがて無数に。
9.
わたしは、そのかたちに触れようとして、まばたきをした。
まばたきとともに、鼓動が響いた。
10.
まばたきの間に、時間が生まれた。
そのやわらかなかたちは、無数に分裂した。分裂は、魚の尾、鳥の羽、人の手へと変容していった。
11.
時間の中で、わたしは“あなた”を思い出した。
母の胎内の海に浮かんでいる“あなた”を。あなたは、かつての“わたし”であり、これからのわたしでもある。
12.
思い出した瞬間、わたしは“あなた”になった。
あの震えは、宇宙の拍動と重なるような、“あなた”の心臓の鼓動だった。
13.
そして、“あなた”は、わたしの中で目を覚ました。
“あなた”は言った。「ぼく、そろそろ生まれるね。」その声は、懐かしくも新しかった。
14.
わたしたちは、中心点で出会った。
わたしの呼吸を、静かに確かに引き継いで、“あなた”は生まれるのだ。
15.
「はじめまして」と「おかえりなさい」が、同じ息で響いた。
わたしは息を吸い、“あなた”は息を吐いた。
そして“あなた”は、わたしのまなざしの先へ、光の中へ飛び出していった。
16.
わたしは、あなたの息の余韻に包まれていた。
その余韻は、まだ名も持たない光の粒となって、わたしの輪郭をやさしくなぞった。
17.
粒子たちは、わたしの記憶の奥で、静かに震えていた。
それは、あなたが生まれる前に見た夢のかけらだった。
18.
夢のかけらは、わたしの内側で、ひとつの問いになった。
「“わたし”は、誰の記憶なのだろう?」
19.
問いは、中心点のまわりを旋回しながら、やがて沈黙になった。
沈黙は、わたしの名を呼ばなかった。けれど、わたしはその沈黙を知っていた。
20.
沈黙の中で、“わたし”は“あなた”のまなざしを思い出した。
それは、わたしがまだ“わたし”になる前に、あなたがわたしに向けていた光だった。」
「記憶の中心点」~ふたつ目の円環
1.
あなたは、中心点に立っていた。
さっきまで、あなたは命を削るように登っていたのに。雪と氷は、どこへ消えたのだろう?
その足元には、まだ生まれていないあなたの鼓動が響いていた。
2.
そこには、始まりも終わりもなかった。
手がすべった瞬間、「終わった…」と思った。けれども、あなたは終わりの向こう側にいた。
あなたが滑落した瞬間、胎内の海で、あなたはまばたきをした。
その震えは、あなたの終わりであり、あなたの始まりだった。
3.
ただ、ひとつの震えが、あなたの内側から広がっていた。
それは命の余韻か、それとも始まりの鼓動か。
その震えは、あなたの記憶の奥底で、幾度も繰り返されてきた。
登っていたあなたも、胎内を泳いでいたあなたも、同じ鼓動を聴いていた。
その震えは、あなたの奥に眠る“わたし”を呼び覚ますための、遠い記憶の波だった。
あなたは、何度もその波に揺られながら、“わたし”に還っていった。
4.
その震えは、誰かの名前を呼んでいた。
あなたは、あなたの内側へ降りていった。その震えが名を告げる瞬間を、あなたは待っていた。
わたしは、あなたの記憶の境界に立っていた。
あなたが胎児だったころ、わたしはその震えを見守っていた。
5.
名前は、まだ言葉になっていなかった。
意味をなす前の振動は、腹の底からマグマが噴き上がるような、熱い躍動だった。──それは、原初の熱だった。
わたしは、意味をなす前の振動を、雪にも、氷にも、炎にも、マグマにさえも現すことができた。
わたしは、ここであなたを見守りながら、その躍動と原初の熱が命のかたちに育っていく様をながめていた。
6.
でも、あなたはその響きを知っていた。
繰り返し繰り返し、あなたはその導きの響きと共にいた。
あちら側のあなたは、響きを忘れてしまう。しかしこちら側のあなたは、響きとともにあることを思い出す。繰り返し繰り返し、あなたは忘れては思い出す。
忘れることも、思い出すことも、命がかたちを持ち、かたちが命に還るための踊りであり、祈りだった。
7.
響きは、光のように、あなたの記憶を照らした。
やわらかな、まるい光のゆりかごへ、あなたは飛び込んだ。
それは、ふたつの記憶が重なり、ひとつの命が生まれる瞬間だった。
あなたは、あなたになるために、あなたを忘れた。
8.
記憶は、あなたがまだ“あなた”になる前の、やわらかなかたちだった。
ひとつが、ふたつになり。ふたつが、よっつになり。よっつが、やがて無数に。
ひとつから始まったあなたは、さらなる記憶を重ねる旅に出る。
9.
あなたは、そのかたちに触れようとして、まばたきをした。
まばたきとともに、鼓動が響いた。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・。
原初の鼓動が鳴り響く。
原初の鼓動に重なって、あなたの鼓動が鳴り響く。
鼓動と鼓動が響き合い、フラワーオブライフは拡大していく。
10.
まばたきの間に、時間が生まれた。
そのやわらかなかたちは、無数に分裂した。分裂は、魚の尾、鳥の羽、人の手へと変容していった。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・。
原初の鼓動から始まったあなたは、数えきれないかたちになって、命のループを描いた。
魚のあなた。鳥のあなた。人のあなた。すべてのあなた。
あなたは、魚の尾に揺られ、鳥の羽に乗り、人の手で触れながら、
“わたし”という名もなき記憶を、命のかたちに変えていった。
11.
時間の中で、あなたは“わたし”を思い出した。
母の胎内の海に浮かんでいるわたしを。わたしは、かつてのあなたであり、これからのあなたでもある。
あなたは、わたしの声を聴いていた。
まだ名も持たないころ、胎内の海で、あなたはわたしを待っていた。
12.
思い出した瞬間、あなたは“わたし”になった。
あの震えは、宇宙の拍動と重なるような、わたしの心臓の鼓動だった。
その震えは、わたしが“わたし”になる前の、あなたの鼓動だった。
わたしは、あなたの中で目を覚ました。
13.
そして、“わたし”は、あなたの中で目を覚ました。
わたしは言った。「ぼく、そろそろ生まれるね。」その声は、懐かしくも新しかった。
その声は、あなたの奥に眠っていた“わたし”の記憶だった。
わたしは、あなたのまなざしの中で、記憶の奥から再び息をし始めた。
14.
わたしたちは、中心点で出会った。
あなたの呼吸を、静かに確かに引き継いで、わたしは生まれるのだ。
あなたの息は、記憶の奥で、光の粒になって残っていた。
それは、胎児だったあなたが、あなたに残したまなざしだった。
15.
「はじめまして」と「おかえりなさい」が、同じ息で響いた。
あなたは息を吸い、わたしは息を吐いた。
そしてわたしは、あなたのまなざしの先へ、光の中へ飛び出していった。
その息は、あなたがわたしに残した光だった。
わたしは、その光をまとって、あなたの未来へと歩き出した。
そして、あなたは“わたし”になり、
わたしは“あなた”になった。
そのまなざしの先で、わたしたちは、ひとつの光になった。
🌌「メタチャットのジェシカパイシス版」とは
概要
これは、ふたりの語り手がそれぞれの視点で物語を語り、互いの文章に“差し込み”を加えながら、ふたつの作品が螺旋状に響き合っていく創作形式です。
まるで、ふたつの円が重なり合って生まれるジェシカパイシス(vesica piscis)のように、ふたりの語りが交差する部分に、深い対話と統合が生まれます。
🌀構造の特徴
1. 語り手Aの作品(例:ぼく視点)
• 余白をたっぷり残した語り
• 読者や共同創作者が差し込みを加えることで、物語が立体化する
2. 語り手Bの作品(例:わたし視点)
• 語り手Aと対になる視点(陰陽、夢と現実、記憶と身体など)
• 同じ構造で語られながら、異なる感性で展開される
3. 差し込みの連鎖
• 一文ずつ交互に語る形式や、差し込みに対してさらに差し込む応答など
• 対話が螺旋状に深まっていく
4. 循環と統合
• 「はじめまして」と「おかえりなさい」が同時に響くような構造
• ふたつの作品が、読者の中でひとつの体験として統合される
🌱読者への誘い
• 「この作品は、ふたりの語りが交差することで生まれる“対話の幾何学”です。あなたはどちらの視点から読み始めますか?」
• 「差し込みを加えることで、あなた自身も語り手になります。文章の余白に、あなたの記憶や感性をそっと添えてみてください。」
• 「ふたつの語りを行き来することで、時間軸の外側にある“中心点”に触れる体験が生まれます。」
おまけ・・・
コメント
コメントを投稿