タクシーセラピー

 潜在意識にどのような意識を植え付けるかで、現実が変化する実体験を書く。

昨年の1月のこと。救急車で運ばれ、その日は一旦帰宅。3日後に精密検査のため、再来院。造影剤を使ったMRI検査で、ようやく失神の原因が判明。たまたまその曜日だけ、他の病院から出張診察に来ていた医師が、循環器専門医だった。これも、ラッキーなことだった。急遽、その医師が所属する大きめの病院に入院することになった。このままタクシーで、すぐに向かってくれとのこと。また、血栓が詰まる危険性があるので、安静にしつつ、素早く移動してほしいらしかった。

その医師が、診察の合間を縫って、素早く用意してくれた紹介状とCD-ROMを抱え、病院を飛び出した。タクシーは、なかなかつかまらない。一台やっと来たと思ったら、誰かに先を越されてしまった。あきらめて、駅まで歩くことにし、ふらふら歩き出した。しばらく歩いて、ふと、何かに呼ばれたように背後を振り返った。一台のタクシーがやってくるのが目に入った。慌てて手を挙げ、無事タクシーに乗り込んだ。

運転手は、60歳くらいの優しげな女性だった。張り詰めていた緊張が少しゆるみ、つい、事の顛末を彼女に話していた。これから急いで入院しなくてはならなくなったと。

彼女は、力強く言った。

「これから、いいことがたくさん起きますよ!大丈夫よ!」

タクシー移動の30分ほどの間、彼女の口からは、ポジティブな言葉ばかりが溢れ出し、私は、そのパワーを全身に浴びながら、ぼ~っとしていた。彼女は、主に、自分のタクシードライバーとしての仕事について話してくれた。兎に角、楽しくて楽しくて、運転している時が一番幸せなのだと。つい楽しすぎて、長時間運転してしまうのだと。

無事、病院に到着し、彼女は、お客さまに配る用のキャンディーを山ほどくれた。その上、自分のおやつ用のクッキーも一箱、私に寄越した。「食べてね!大丈夫!いいことがいっぱい起きるわよ。」彼女は、私が入り口に入るまで、見送ってくれた。彼女の人柄が、あたたかくて、胸が感動でじんわりしていた。夢見心地で、ぼ~っとしながら、病院の受け付けたどり着いた。

連絡を受けて待っていてくれた、受付の方は「患者さんは、どちらですか?」と、キョロキョロしていた。「私です。本人です。」と言ったら、驚かれた。私は、車椅子に乗せられて、検査室まで運ばれた。安静にしなくてはならない症状のはずで、病院側は、覚悟して待ち構えていたらしい。私が元気いっぱいで、シャキシャキ現れたので、戸惑ったようだ。

なぜ、普通なら不安に苛まれ、弱々しく登場すべき患者が、こんな生き生きと、今にもステップを踏み踊り出しそうな勢いで登場できたのだろうか。きっと、私からは、輝かんばかりの生命力があふれていたことだろう。

私は、どんな検査も楽しくこなし、病室に落ち着いてもワクワクしていた。点滴やら、脈拍と酸素濃度を図る機器を取り付けられ、コードまみれにされ、足に、血栓を防ぐためのマッサージ機器を巻き付けられ、自由に身動き取れなくなっても、すべての体験を、素直に受け入れていた。胸はずっとワクワク、ときめいていた。

後から思い出しても不思議だ。あの時、一切の不安を感じなかった。私は大丈夫だと、信じていた。というより、大丈夫だと知っていたのだ。何もかもが、未来の良きことのために起きていると知っていたので、ずっと安心していた。入院ライフは、毎日が楽しくて、あっと言う間だった。

入院中、クローゼットの中に、タクシードライバーの彼女からプレゼントされたクッキーの箱を見る度に、ただただ、幸せに包まれた。私は、どの瞬間も、完璧な愛に守られていた。

あれは、タクシーセラピーであったのかもしれない。突然の展開に呆然としていた私に、彼女は間断なく、ポジティブな言霊を浴びせかけ続けた。私の顕在意識をスルーして、すべての言霊は、潜在意識に染み込んでいった。あの移動時間、私は、愛のシャワーを浴び続けていた。これから、いいことがたくさん起きる。私は大丈夫!潜在意識は、それを100パーセント信じきったのだ。

その思い込みは、幸せな現実ばかりを引き寄せた。

タクシーセラピーの彼女のことを今でも度々思い出す。彼女、菩薩様だったんじゃないかな。

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